チュオンさんと私(2) -掃除機の使い方-

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チュオンさんの管理するアパートに暮らしている頃は子供が一人だけだったので、息子の昼寝時間を掃除に当てて、砂ぼこり舞う路地から我が家を守ることに必死でした。当時、ベトナムに来て間がなかったこともあり、ハノイのほこりっぽさを子供を育てる環境としてどうなのかという視点から本気で嘆いており、近所のおばあちゃんが遊びに来て子供用のラッパを吹くのはぎりぎりアウトだろうみたいなメンタルで暮らしていたので、折り畳み式の木製建具(たてぐ)から吹き込む砂ぼこりが子供の這う床をざらざらにするのはなんとしても避けたい状態でした。いま考えるとそんな神経質になってたらハノイで暮らせないでしょ?って思いますが、こうしてつらつらと人に説明していると上記のことがオールOKになっている自分がとても心配になります。大丈夫か、私。

とにかく当時は雑巾と布巾でとてもがんばっていましたし、夫の英断で半年後に掃除機が導入されたときは感動ものでした。その頃、ハウスキーピングに来てくれるはずのチュオンさんはどうしていたか。。来てくれなくなっていました。なぜならチュオンさんは週二日来る契約になっていたものの、何曜日に来るかは決まっておらず、来る時間も決まってなかったため、今日はもう来ないのかなと思って掃除をした頃に来たり、他の家も拭いたモップでざっくり仕上げた床は私が雑巾で拭き上げた床よりは汚かったりするので、「今日はいい」と断ることが重なった結果、だんだん来なくなってしまったのです。契約と違うので、値下げ要求をしてもいいところですが、値下げはいやだとまた掃除に来られても厄介なのでそっとしておくことにしました。掃除を頼んだはずなのに、掃除に来られることを恐れている不思議。ハノイスタンダードに慣れられないとありがちなことです。

そんなチュオンさんですが、私が二人目を出産してハノイに戻ったときには抱きついて喜んでくれるような人でもあります。ベッドがひとつでは狭かろうと上階の部屋を同じ値段で貸してくれ、掃除も相変わらずのほうきとモップ掃除ですが、きびきび来てくれるようになりました。私も以前よりゆるくなった衛生感覚と上階では埃も少ないという安心感からチュオンさんに掃除を任せっぱなしになりました。

と、あるとき夫しかいないときにチュオンさんと上品なベトナム人奥さんが来て、我が家の掃除機を借りて行きました。ベトナム人奥さんは少し英語がわかり、息子さんは日本に働きに行ったこともあるとか。。そのとき私はどうしていたか、脱水症状を常態化させて腎盂腎炎(じんうじんえん)になり病院に入院していました。寒気と高熱に交互に見舞われながら夫にその話を聞いたのですが、チュオンさんが必要なものを借りにくるのはたまにあることなので掃除機の件はあまりきにしていませんでした。それどころではなかったというのももちろんあります。けれど、翌日退院しても掃除機がなかったので掃除に来たチュオンさんに掃除機のことを聞いてみました。すぐに戻って来るというチュオンさん。貸した相手はこのアパートの人なのか聞くと、すぐ、すぐと言って掃除に戻ってしまいました。

、、、おそらく、自分がちょくちょく掃除に来てるから、掃除機はいらないだろうと考え、我が家の掃除機を知り合いに貸すことにしたのでしょう。たぶん有料で。

確かに毎日使うわけではないですが、子供がなにかひっくり返したり、なにか割れたりしたときには使うのでチュオンさんの小遣い稼ぎに使わせるわけにも行きません。

うちでも掃除機使うからね~と念を押そうとしたとき、すごく楽しそうにチュオンさんが戻ってきて、昨日の夜はどこに泊まってたの?と聞いてきました。チュオンさんの旦那さんは一階のエントランスに警備のために寝ているので、住人の出入りを把握してるのです。きっと、喧嘩の挙げ句、私が怒り心頭で乳飲み子を連れて外泊、家庭崩壊の危機というのを期待されていたのでしょう。昨日は、病気で病院に泊まったよというと、チュオンさんが大笑いしだしました。あー!なんだ、病院にね!みたいなことを言いながら笑っています。いやいやいやいや、少しは心配そうにしてよ、っていうか掃除機返してよ。

結局、二週間ほどで掃除機は返ってきましたが、洗剤をつけてはいけないフィルターが洗剤で洗われていて、ほどなく使用不能になりました。もともと掃除機の状態はよくなかったので、借りて行った奥さんもどうしたら使えるか試行錯誤したんでしょう。お気の毒なことをしました。新しいアパートのハウスキーパーさんはやはり大家さんの親族なのですが、うちに掃除機があるのを見つけると掃除機で掃除をしてくれるようになりました!これに感動するのがおかしいのか、そんなこんなでもけっこうチュオンさんに感謝してるのがおかしいのか、ハノイに住んでいると感動しやすくなる気がします。

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