ベトナム人の謝りどころ、日本人の謝りどころ

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5年前にベトナムに来た頃、ホーチミン市でもハノイでも謝ることというのは一般的ではなかったように思います。ガイドブックや辞書には日本語の「すみません」、「ごめんなさい」に相当する言葉としてベトナム語の「xin loi」が紹介されています。しかし当時、実際にその言葉を使ってみると言われた相手はびくっとするし、「そんなこと言わなくていいのよ」という慈愛に満ちた眼差しを向けてくるし、日常使いからはかけ離れた言葉という印象を受けました。これは「xin loi」という訳語にも問題があるようで、一度ベトナム語の先生からその言葉は日常的に使うのにはそぐわないから他の言葉で言ったほうがいいと指摘されたことがあります。残念ながら、なんと言ったほうがいいのだったかすっかり忘れた上、当時のノートからも見つけられなかったのですが(私のベトナム語がちっとも上達しない理由がわかった瞬間でした)。「xin loi」ほど顕著ではありませんが、同じようなことが感謝を表す「cam on」にも言えます。日常的に連発する感覚の言葉ではないらしく、我が家のハウスキーパーさん、オアインさんは部屋をきれいにした後、私が「Em cam on chi!」って言うのから逃げ回っているように見えます(言われたら笑って返してくれます)。

なぜベトナム人が謝らないのか(もしくは感謝を日常的に示さないのか)。ベトナム人はプライドが高いから、ベトナム人は過ちを認めたがらないから、などいろんな理由が考えられますが、人と人との距離の近さも大きな要因のように思えます。ハノイでもホーチミン市でも、日本より人と人との距離が近いベトナム。お互いに持ちつ持たれつ、少しぐらい迷惑をかけたりかけられたりは当たり前という気持ちが、多少のことで謝ったりお礼を言ったりしない関係を作っているように思います。

いまを去ること3年前、ベトナム人の謝る感覚と日本人の謝る感覚のずれを実感したことがありました。その頃、ハノイのインターナショナル病院に通っていて、当時は今よりもクレジットカードを使うことを避けていた我が家、おまけに当時加入していた保険は申請後払いのアンチキャッシュレス方式でした。なにかまとまった支払いをするためにベトナムの最高額紙幣である50万ドン札50枚余りを夫に持たされて外出しました。最高額紙幣といっても米ドルにして23ドルほど。当時、米ドルでの支払いが厳しく制限されていた時期でもあり、高額の支払いには札束が必要でした。なんちゃってリッチマン気分(実際には日本円で10万円あまり)!
さて、そんなリッチマンの私、概ねの金額を事前に知らされていたので50枚分は別の封筒に入れ、前日夜に2回数えて確認しておきました。病院でいざ支払いというとき、端数分の支払いのために封筒のお札に50万ドン札を1枚足して病院の日本人通訳さんにお渡しすると、「いま紙幣を数える機械が故障しているので、私が数えます。ちょっと待ってくださいね。」とのこと。お気の毒だーと思いながら見ている間に通訳さんは慣れた手つきで10枚づつの紙幣の山を作り51枚の紙幣を確認、ダブルチェックのために近くにいたベトナム人スタッフさんに「もう一度数えて」と指示されました。そのベトナム人スタッフさんが通訳さんの作った10枚ずつの束を黙々とひとつの塊にする工程を見守ることしばし、、スタッフさん「50枚」と言い放ちました。えぇーっ!!もう1枚あるはず!もう1枚あるはずだよ!?通訳さんも二回、三回とその若いスタッフさんに確認をしますが、スタッフさんにべもない答えです。彼女にもう一度数えなおす気がなさそうなのと、数えなおしてまた「50枚」と言われても話が進まないので、塊になってしまっている紙幣を通訳さんと私でもう一度数えました。結果、51枚。。通訳さんが一応、彼女に「51枚あったよ」と伝えるも、通訳さんの意図が伝わらなかったのか、もう興味がなくなったのか、最初からそんなことは知ってたかのような顔でうなずいています。晴れて51枚あったので、おつりをその彼女からもらう私。が、なにか足らない。。出されたおつりを受け取りつつ、なにかをぼやっと待っていると、彼女がちょっと怪訝そうに「他にまだ何か?(正確にはなんと言われたのか忘れてしまいました。「もう終わりですよ」だったかも知れません)」と聞いてきて、ようやく気づきました。結局、数え間違えたのは彼女だけなんだし、手作業で何回も数えるのは大変だったんだし、彼女が「sorry」って言ってくれるのをなんとなく待っていたのですが、彼女にしてみればなにか悪いことをしたわけでもなく、なにか大変な落ち度があったわけでもなく(51枚も数えたら、1枚くらい数え間違えるのは当たり前です)、そっか!ベトナム的にはここ謝るところじゃないんだ!と気づいた瞬間でした。

日本とベトナムの感覚の違いはわかったものの相変わらず自分は自分の気の向くままに謝ったり感謝したりしていますが、最近、ベトナム人の謝ったり感謝したりするタイミングが以前と変わってきたことに驚いています。飲食店でオーダーの確認中にミスがあったとき(ミスオーダーではなく、ミスがないか確認中にわかったとき)や狭い店内で道を譲られたとき、こちらがちょっと丁寧に説明してみせたときなどに「sorry」や「thank you」といわれてこちらがびっくりしてしまいます。普段英語で話す人ではなくても「sorry」や「thank you」という言葉を使うのは「xin loi」や「cam on」はやっぱり仰々しい意味を含むからなのか、私がわかりやすいようになのか、とりあえず昔のベトナム語の先生に連絡をとって、「xin loi」じゃなくてなんて言うんだったか聞いてみようと思います(たぶん「xin phep」。。)。

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Comment

  1. 小新井じゅん より:

    新しい発見でした!
    面白かったです。
    Xin cam on!

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